2019年 07月 14日
[軒の高さ]ずっと行きたかった場所にやっと行く機会が持てた。これで国内にあるフランク・ロイド・ ライトの建築で見学できる三つ全てを制覇したことになる。3つのライトの建築を訪れて誰もが気になるのは、明らかに高さの低いエントランス=入り口だ。これはライトの意図するところでおおよそ2.1mの低く暗いエントランスを抜けてから、柔らかな自然光に包まれるホールまたはリビングに足を踏み入れるのだ。ライトの初期の設計はプレーリースタイルと呼ばれ、低く深く水平線の強調された軒と大地に溶け込むようなエレベーションが特徴だ。ところが、数年前に京都の町屋から近江八幡の街並みを視察した時驚いた。江戸時代から続く古い日本家屋の軒の高さのほとんどが2.1mなのだ。ボクが実際の設計で、エントランスや軒の高さを2.1mにして平気な顔してるのは、この二つの経験からだ。2.1mは日本の七尺。実は軒の高さを七尺とするのは古くから日本にある設計手法であって、今も公式に国賓を迎える京都の迎賓館の軒の基本高さもそうである。この七尺という高さが 「外から見て一番美しく感じ。」中から見ても「屋根が目線に入って安心感を得られるのだ。」とは近江八幡で知ったこと。古くから洋の東西を問わず建築物の高さや過剰な装飾の多くが宗教上や権力の威厳を表す為に施されている事が多いことは事実。しかし、産業革命の中で育ち国籍にとらわれたくないインターナショナリズム絶頂期のアメリカ人、フランク・ロイド・ ライトは、人が共通に持つ、優しさと安心を直感的に外観で与えながら、内部に一歩踏み入れた瞬間、自然に対する畏敬の念や哲学を汲み取らせることで「萎縮」ではなく尊敬に値するだろう建築主個人の内面性に気付かせる建築を目指したのだろうと僕は感じる。「何冊の建築の本を読むより帝国ホテルのロビーに座っている方がはるかに勉強になるだろう。」と言った建築家がいたけれど、ライトの功績を巡ることはまさにその言葉通りの体験なのである。
by kent_yano
| 2019-07-14 09:39
| 住宅建築家「Y」のノート
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